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クラッチオーバーホ−ル (FR車の基本例)

 クラッチのオーバーホールは、マニュアルミッション車のメンテナンス作業です。

では、どのような場合に作業をする事になるのでしょうか? 

1.クラッチの消耗による滑りで (全く走れない含む) 
2.半クラッチ時等の振動(ジャダ−)で 
3.クラッチが切れ不良で、変速出来なくて 
4.クラッチ操作時等の異音で 
 

今回の故障の状況は、停車時にローギヤに入っているのを忘れて、うっかりクラッチから足を離しガクンとエンストさせてしまい、気にせずそのまま放っていた。
後日、チェンジを抜きエンジンをかけ、走り出そうとクラッチを踏んで、ギヤを入れようとするが、ガリガリ弾かれ入らない。
どのギヤもダメで、全く発進不能状態になった。

これは、3番の不具合で、クラッチワイヤーはじめ外部が正常に作動しておれば、内部の不具合であり、オーバーホールが必要です。 
 

         
床下からミッションcpt.(コンプリート)を見たところです。 

クラッチをオーバーホールする為には、ミッションcpt.を取り外す(降ろす)必要が有ります。 
 

ミッションcpt.の降ろし方
ミッションcpt.への接続物をすべて外し(スピードメーターケーブル、クラッチワイヤー、チェンジロッド、マウントラバー、アースケーブル、バックランプハーネス、セルモーター、プロペラシャフト等) 
エンジンとの接続ボルトをすべて外します。 
 

  ミッションの右側です。 

写真中央の円筒型の物は、セルモーターです。 
セルモーターのケーブルも外した方が作業性が良いため、バッテリー(ー)端子を予め外しておきます。

  ミッションの左側です。 

写真中央のレバーは、クラッチレリ−ズレバーで、下側に接続しているのは、クラッチワイヤーです。 
もちろん、切れ不良や滑りの際には、作動状況(ストローク、ガタの有無)や遊びを一番に点検します。

   プロペラシャフトのデフ接続部です。 

脱着時の注意点として、プロペラシャフトとデフの合わせ部に、位置決めの合いマークを付けておきます。

これは、組付け時に元と位置が異なると、振動が発生したりする場合があるからです。

ミッションcpt.  
ミッションcpt.とプロペラシャフトを一体で降ろし、お腹に載せて引き出します。 
もし、プロペラシャフトをミッションから引抜くと、ミッションを後ろに傾けた時に、オイルが洩れます。 
写真右側のエンジンと接する広がった部分は、クラッチハウジングです。 

床下の高さが有りませんので、寝板も使えず、ゴザと段ボールを敷いて潜り込んでます。
 

    
クラッチハウジングの内部を見たところです。 
丸い穴は、セルモーターの取付部です。 

中央の突き出したシャフトが、ミッションのインプットシャフト(メーンドライブシャフト)で、クラッチディスクとスプライン(溝状の歯)噛合します。 

その奥のドーナツ状の物は、カラーベアリング(レリ−ズベアリング)と言って、ベアリングで出来ています。 
カラーベアリングは、左右に通っているシャフトが回転する事で、前後に動きます。 
そして、このシャフトは、クラッチワイヤーによって動かされ、クラッチペダルを踏むと、カラーベアリングが前方に動きます。 
クラッチペダルを離すと、スプリング力によって元のミッション側に後退します。 

内部に付着している茶色い粉は、クラッチ関係の磨耗粉で、ディスクブレーキでホイールが汚れるのと同様です。 

シャフト及びカラーベアリングのベアリングガタと、摺動部の磨耗を点検し異常なければ、給脂しておきます。 
 

   
ミッションcpt.を降ろしたエンジン側の様子です。 

大きな丸いフライホイールに、クラッチカバーとクラッチディスクが取り付けられています。 
花びらの様な黒い物は、皿状のスプリング(ダイヤフラムスプリング)で、クラッチカバーに取り付けられ、プレッシャープレートを介して、クラッチディスクをフライホイールに常時圧着させています。 

 

  パイロットベアリング部グリス切れ

上の写真から、クラッチカバーとクラッチディスクを取り外した状態のフライホイールです。 

丸いドーナツ状の部分が、クラッチディスクとの摩擦面です。 
真ん中の6本のボルトで、クランクシャフトに取り付けられています。 
そのボルトの中心にパイロットベアリング(この例では、メタル)が有り、ミッションインプットシャフトの先端を支持しています。
 

  クラッチディスクのスプライン部グリス切れ

取り外したクラッチカバーとクラッチディスクをフライホイール側から見た状態です。 
クラッチディスクのコイルスプリングは、回転方向のショックや振動を緩衝させる物です。 
 

 

  プレッシャープレート摩擦面を点検します。

上の写真から、クラッチディスクを除けた状態です。 
ドーナツ状の部分は、プレッシャープレートで、ダイヤフラムスプリングとつながっています。 

 

修整 モリブデングリスを塗布し、スプラインの摺り合わせをします。

ミッションインプットシャフトのスプラインにクラッチディスクを噛合させた状態です。 

通常、クラッチディスクは、プレッシャープレートに押されてフライホイールに圧着しております。
それによって、クラッチディスクに回転力が伝わり、ミッションに動力が伝達されます。 
しかし、クラッチを踏むと、カラーベアリングがダイヤフラムスプリングを押さえ、逆反りさせるような状態になります。 
それによって、プレッシャープレートのクラッチディスクを押す力が無くなり、摩擦面が離れて、動力が切断されます。 

この時に、スプライン部の滑りが悪いとクラッチディスクの引きずりや貼り付きが生じ、切れ不良となります。 
また、クラッチディスクが、たわんだり剥離したりして変形していても、摩擦面が綺麗に離れず、引きずりが生じます。 
ダイヤフラムスプリングの先端の高さ不揃いや、プレッシャープレートの変形も引きずりを生じます。
 

  各摩擦面を紙ヤスリで修整します。

また、パイロットベアリング部に、モリブデングリスを塗布します。 

今回のトラブルは、インプットシャフトが、この部分とクラッチディスクスプラインの間でこじった形で固着した事で、ダイヤフラムスプリングが押されているに関わらず、ミッションに回転力が伝わり、シフトが出来なくなったものです。
 

組付け  
走行距離が多く(7万km)通常の場合、折角のオーバーホールですから、せめてクラッチディスクだけでも交換すべきです。 

今回は、残量約2万km(運転上手)ですが、それまでに廃車する予定との事で、すべて再使用しました。 
これも、自己責任のもとで、作業を実施するDIYならではの事です。 

まず、クラッチディスクとクラッチカバーをフライホイールに取付けます。 
ポイントは、クラッチカバー取付ボルトを3分程仮締した段階で、クラッチカバーとクラッチディスクの中心をドライバー等(本来は、ダミーシャフトかセンタリングツール)で出来る限り正確に揃えます。 
次に、全ボルトを均等に締め付け、ダイヤフラムスプリングの高さが揃っている事を確認します。 

ミッションcpt.の取付は、取り外しの逆ですから省略します。 

ただ、重要な点は、エンジンとの合わせ部に、配線等を挟まない様、注意する事と、無理矢理ボルト締めしない事。 
その為には、必ず「カツン」と密着させてから、ボルト締めしていく事です。 
  

完了  クラッチペダルも軽くなり、あわせてチェンジもスムーズ!

残量はないけど、まるでそんな事は分かりません。 

『やれやれ、やった甲斐はありました。』 

パーツの再使用は、新品に交換するのと違って、本当にわかっていないと出来ません。 
これに限らず、事例では解説を増やして、理解を深めて頂ける様に努力致しております。 
読むのも大変と思いますが、さらに不明な際は、メールで御質問下さいね〜。  
 

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