事例紹介
 
  
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 クラッチ不良
 
リッタークラスになると、クラッチも油圧作動の機種が多いですね。
ブラックバードもそう。
ハンドルには、左右に2つのリザーバー。
まるで左右対称のようなコックピットは、いかにも高級感があります。

しかし、それがイコール、全てにおいてワイヤー方式以上の仕組みか〜?
と言うと、問題点も多い!

【どうも油圧式のフィーリングに馴染めない!
発進時にドンと出たり、ギクシャクしたり〜
要するに、半クラッチ操作が上手く出来てない?
レバーの取付け高さ(ハンドルグリップとの距離)は調整式だけど、どの位置でもしっくりとこないから‥‥‥
ちょっとゴツイグローブのせいかな〜それとも
もしかして、運転が下手なのか〜?!】


そんな話を受けてクラッチを握ってみた!
確かに、フィーリングが悪い!全体に少し重いし、握り始めの遊び感がまるで無い〜
また、エンジンは、停止中でも作動中でもそのフィーリングにはあまり差がわからない。
同じ油圧式でもZZR1100なら、特に違和感無く操作できるのに‥‥‥
両車でパワーが20PS程違うとはいえ、クラッチのセット荷重の差をそのまま放置するかな?(そんな筈は無い)
ちなみに、走行距離は、1万8千キロ。このクラスなら、まだまだこれからって段階。
クラッチの消耗も何も、やっと当たりが出てきたってところじゃないの〜?
これで正常レベル??
しかし、操作感に少しザラツキが有るような気もするし〜
色々と考えた挙句、この操作感はホンダらしくないと。
比較する同一機種でもあれば簡単だけどね!

そんなわけで、クラッチの滑りでも固着でもないけど、クラッチの作動を徹底検証する事に〜!
操作が下手なのか、それともバイクが悪いのか、ハッキリさせてあげましょう!
万一、異常が無ければ一品料理を作らせてもらいましょうかね〜♪
 
 
 クラッチレバーは?

ピストンが飛び出さないように
当て物とテープで押えておく
 


クラッチレバーを裏返した写真ですが‥‥
(写りが悪かったみたい〜)
下の穴に金属ブッシュがセットされ、そこに
マスターシリンダーのプッシュロッドが嵌る
 
クラッチの操作系は、クラッチレバー、クラッチマスターシリンダー、クラッチスレーブシリンダー、ここまでが油圧操作部分。
続いてリフターロッド、リフターピース、リフターベアリングを介してリフタープレート(プレッシャープレート)に至る機械部分。
以上の順に、握力は姿を変えながらクラッチ内部に伝わり、クラッチ開放の力として働く。
だから、この力の流れの中のどこかに不具合があれば、レバーの操作感に違和感を感じるって事になるわけ。


そこで、まずはクラッチレバー周りから点検する事に
レバー部は、手元に近いだけに、ちょっとした異常でも違和感を感じ易いもの。
例えば、クラッチスイッチ(マイクロスイッチ)のグリス切れでさえ、引っ掛かりや硬さを感じる程。
ただ、今回のようにクラッチ操作自体に支障をきたす程の違和感なら、もう少し大物が隠れているハズ〜

レバーを取外して各作動部を点検すると、マスターシリンダーのプッシュロッドが嵌る円柱形のブッシュが偏磨耗している。
ピボット(レバー取付ネジ部)を含め、全体的にグリス切れで手入れがされていない状況です〜
しかし、ブッシュが楕円形に偏磨耗するには、それ以上の要因があるのは間違いない!
だいたい、こういったパーツは多くの機種に使用され、長年の実績もある。
たかだか、2万キロ弱でこの消耗にはならないだろうから。

ブッシュが収まるレバーのアジャスター部分は、部品注文するとして、根本原因を追究していく事にします。
次は、マスターシリンダーの作動の順番となるけど、油圧系は後回しにして機械部分を先に攻める事に。
もちろん、フルード漏れ等の外観検査はしっかりとやっておきます。
 
 
 操作系を順に点検

エンジン左側のシフトペダル上部付近の様子
真ん中の丸い部分がクラッチスレーブシリンダー
ブレーキで言えば、キャリパーって事になる
 

クランクケース右側のカバーの中にクラッチがある
カバー取付部のガスケットは毎回交換が必要
 手前、アルミの皿の様な部分がリフタープレート
 
レバー部に続く操作系の動きの流れは?
マスターシリンダーで発生した油圧は、エンジン左側のクラッチスレーブシリンダーに至る。
スレーブシリンダーから先は、再度、機械的な作動に戻ります。
スレーブシリンダーからエンジンを横切る長いリフターロッドで右側のクラッチ本体まで、といった流れです。


では、その順番に点検です。
スレーブシリンダーを取外し(ホースは外さず)、漏れ等の外観を検査します。
内部は、マスターシリンダー同様に後回し。
問題なければ次へと進みます。

リフターロッドの曲がりやオイルシールとの接触部の段付き磨耗の有無等を点検。
磨耗部は、#1000程度のサンドペーパーにオイルを付けて優しく修整しておきます。
この部分の組付け時は、シリコングリスを塗るように。

次は、いよいよ、クラッチ本体部分の点検作業。
まず、エンジンオイルを抜き取り、右側クランクケースカバーを外します。
取外しは、全ネジを数度に分けて徐々に緩め、ネジの頭が少し浮いてきた段階で、プラスチックハンマー等で軽打。
マイナスドライバー等でこじると、接合面をキズ付けるので良くありません。
 
 
 原因判明!
リフタープレートを取外し、ベアリングのガタを点検。
続けて、リフターピースを点検しようとすると〜
メインシャフトから抜き出してみると、その接触部がキズだらけ〜!

これは酷い!
メインシャフト内はオイル潤滑されているはずだから、接触痕が付いたとしても、鈍く光る程度のもの。
一体全体、メインシャフト内面はどんな仕上げがされているんだ〜?

メインシャフトの内面にキズが見えます。
これは、明らかに異物が噛み込んだキズ。
シャフトの仕上げの問題ではありませんでした〜
製造時の洗浄不良?それとも、ミッションの磨耗粉?
とっても高いオイルや添加剤を常々使っていたらしいから、お気の毒〜
何が原因か、どの段階で生じたかはわからないけど、・・・らしくないのには違いない!
 
ライトで照らしてみると、リフターピース同様に結構なキズが入っているのがわかります。 メインシャフトを交換するわけもなく、当然修正する事にします。
まず、キズの奥側にオイルを含ませたペーパーウエスを詰め、削りカスが内部に入らないように準備。
リューター等の回転砥石ではなく、オイルを付けながら精密ヤスリで慎重に手仕上げです。
 
 
 もう少し〜

もういいかな〜?まだ少し線が残っているみたい


 これでバッチリ!

削り過ぎないように慎重に、これで完全にキズは消えました〜!
 新品のリフターピースに少量のモリブデングリスを付けて当たり付けをします。
リフターピースの周囲に側圧を加えつつ、前後にシコシコと暫く擦り馴染ませます。
忘れない内にウエスを取り出した後、丁寧に掃除し、再度少量のグリスを塗布。
 
リフターピース部は、クラッチセットスプリングに一番近い部分の不具合と言えます。
しかも、キズの形状が円周状だけではなく、明らかに不規則な線がある為、何か異物が介在したのも事実。
以上から考えて、これが根本の原因と思って間違いないだろう。
当然、レバー部の異常磨耗は、二次的な症状って事になるよね。

最初、レバーに始まり、ついにはクラッチ本体までの作業となりました。
でも、ここで、やれやれって事で、さっさと片付けたらどこかの見習いさんと同じ〜
この機会に、クラッチ各パーツを点検し、スプラインの段付き磨耗などを修整しておこう!
オイルストーンで作動方向に軽く擦れば、スムーズな作動に効果があるハズ?
ちなみに、プレートの厚みは、予想通りピリッとも減っていませんでした〜(新品と同数値)
 
 
 完了

この写真では、ブッシュがよくわかる(真鍮色の部分)
 レバーは、この機会にブレーキ共、アントライオン製に交換
 思った程は手前に寄らなかったけど、削り出しの高級感はさすが!
 
各部を修整したりしながら組み直すと(エンジンオイルを入れ忘れないように)、予定通り、風のように操作出来るクラッチとなりました〜♪

上質なフィーリング、これでこそ高級車の油圧クラッチです!
もちろん、半クラッチ付近の微妙なレバーコントロールも無理なく操作できます。

ところで、油圧系部分は結局分解しませんでした。
理屈では、各ピストンにも無理な力が加わって、シリンダー部にもダメージが生じている事になるハズ。
しかし、外観検査でフルードの漏れも無く、フィーリングも良いとなればパスも選択枝!
作動点検も兼ねて、クラッチフルードを交換ってところで止めておきました。
分解点検するなら、インナーキットは交換した方が良いに決まっているしね!
こんな見極めも、無駄なコストを掛けないって意味で重要でしょう。
その分、レバーを社外品にチェンジして、見た目も触感もリフレッシュ出来ました〜♪

これで、今まで苦しんだクラッチ操作が、今後は楽しくなるのは間違いなし!

 
 


蛇足)油圧式クラッチの操作上の問題点
その一つが、操作のダイレクト感の問題。
この点は、ブレーキも同じわけだけど、ワイヤーやロッドによる機械式ブレーキが無いんだから比較のしようが無い。
さて、クラッチ操作のダイレクト感で問題になるのは、まず第一にクラッチの遊びの具合。
そして、次に半クラッチ状態の感触がどうか?
ワイヤー式なら、遊びは好みで調整できる。
そして、操作中は、ワイヤーのテンションを介して断続や半クラッチ等、作動の様子がググッと手に伝わる。
 
ところが、油圧式の場合、遊びは自動調整でレバー部のクリアランスとしてはゼロ。
ピストンが動き出して、油圧が立ち上がるまでのストロークが、ワイヤーで言う遊び相当になる。
また、作動中の感触は、同じような抵抗のストロークがグニャと手に伝わるだけ。(ブレーキよりフィードバックは希薄)
だから、半クラッチの位置は、手の感触よりもエンジン音の変化やバイクの動き出し等で把握するという間接的な事になる。
素早い操作が出来るのは、その時の手の戻し位置(握りの開き加減)を体が記憶しているからという具合。

さて、二つ目の問題。
これは、誰にでも当てはまるものでもないけれど‥‥‥
リーン中に操作をするとエアを噛んでしまうって構造上の問題。
リザーブタンクのフルードが減っているのは論外として、油面が片寄るから仕方ない。
そもそも、リーン中にシフトチェンジする方が悪いというか、運転が下手?
ところが、初めてのコーナーとかで、何らかの事情でトラクションが抜け掛かったけど、まだバイクを起こせない時とか〜
コーナー出口で、わざと派手なテールスライドを見せてあげようと思ったり〜♪
どちらも、安全サイドでライディングしていれば問題ないって気付きました〜(笑)
ところで、この件は、ブレーキでも同じ事なんだけど、さすがに派手なリーン中にブレーキは掛けないよね!
 

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