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スクーターのクラッチOH?
  
 
  
スクーターって、エンジンをかけて、スロットルを開けると自動的に発進します。 
そのまま、加速を続けるとお○わりさんのお世話になります‥‥‥ 

という事ではなくて、戻すと減速。 
さらに、停止すれば、そのままアイドリングで止まっています。 

当り前ですけど、これってオートマチックじゃない! 

そうなんです! 
Vベルトオートマチックと呼ばれる自動変速機です。 
遠心力を上手に利用した、シンプルかつ信頼性の高い優れメカです。 

なのに、クラッチOH!? 
それは、自動変速機ですけど、機械式の遠心クラッチが付いているってわけです。
で、なぜオーバーホール(OH)するか? 
発進時や減速後の再加速時に振動が出るって不具合が有るからなんです。 

では、振動とクラッチの関連を説明する為にも、駆動系全体の仕組みと作動について、ちょっとお勉強してみませんか? 
 
 

  
ちょっとお勉強! 

簡単に仕組みと作動を説明しておきます。 
エンジン側と駆動輪側の2つのプーリー間にVベルトが掛けてあります。 
エンジン側のプーリー(以後Fプーリー)は、遠心ウエイト(ウエイトローラー)の働きで、直径が可変する仕組みです。 
駆動輪側(以後Rプーリー)は、リターンスプリング付の可変出来る仕組みとなっており、遠心クラッチが付属しています。 

停止時 
エンジンの回転が低い状態では、FプーリーからベルトでRプーリーに回転が伝えられても遠心力が弱い為にクラッチが継がらず、タイヤに力が伝わりません。 

発進時 
回転が上昇する事で、遠心クラッチが継がりタイヤが回ります。 

低速時 
停止時や発進時は、Fプーリーの遠心力が弱い為、Fプーリーの直径は小さい状態です。 
Rプーリーは、常に直径が大きくなる方向にリターンスプリング(クラッチセンタースプリング)の力が加わっています。 
その為、Fプーリーが小さくてベルトの長さに余裕が有る為、Rプーリーは充分大きくなっています。 

自転車に置き換えて考えてみてね? 
前が小さくて、後ろが大きいとスピードは出ないけど、力が出ますよね!
 

高速時 
エンジン回転が高まるとFプーリーの遠心力が強まり、ウエイトローラーの働きで、Fプーリーの直径は大きくなります。 
この時、ベルトの長さは一定ですから、ベルトは前側に引っ張られる状態となります。 
その為、ベルトは、Rプーリーのリターンスプリングに逆らって、プーリーの中に食い込み、Rプーリーは小さい状態になります。 

前が大きくて、後ろが小さくなりました。 
自転車の場合で考えると、坂道は登れないけど、スピードは出ますよね!
 

減速時 
スロットルを戻す事で、エンジン回転が低くなります。 
Fプーリーの遠心力が弱まり、Fプーリーは、小さくなれる状態となるとともに、ベルトを前に引っ張る力も弱まります。 
この時、Rプーリーは、リターンスプリングの力で常に大きくなろうとしていますから、ベルトの力の弱まりに応じてRプーリーを大きく戻します。 

さらに、スピードも落ちてタイヤの回転も低下すると、遠心クラッチが切れて停止時状態となるわけです。

大まかな作動についてわかりました〜?
  

カバーの取外し   
では、作業の開始です〜!

カバー取付けボルトを外すとカバーは簡単に取り外せます。 
カバーのシールはラバーで出来ており、再使用も簡単便利です。 

写真では、エアクリーナーのカバーも外れています。 
左側が、Fプーリーで右側がRプーリーです。 
停止状態のFが小さくRが大きい様子がわかります。
Fプーリーの外側(手前)のプレートには、フィンが付いておりドライブフェイスといいます。
 
F側R側のどちらも、脱着に際しては、レンチをかけると回ってしまいますので、専用ホルダーで回り止めをします。
ホルダーが無い場合は、フィンを折らないように気を付ければ、ドライバー等でも回り止め出来ますが‥‥‥
R側は、大きいゴムベルトのグリップ(ビンのふたあけ)でも何とか出来そう?
エアインパクトでする場合は、締め付けトルクに注意です。
  

Rプーリーとクラッチの取外し  

 

 
 
 

    
Rプーリーとクラッチを取外します。

手前のドラム状の物が、クラッチアウターで、その中にクラッチアッセンブリーが有ります。

プーリーは、2枚の円錐形のプレートによって出来ています。
向かい合うプーリーのフェイスプレートは、奥に見える太いリターンスプリング(クラッチセンタースプリング)で押し付けられています。 

クラッチアウターを外すとドライブプレートとそれに取付けられたシューが現れます。 
  
この遠心クラッチの構造は、ドラムブレーキと良く似た物です。 
ドラムブレーキが、ワイヤーや油圧でシューをドラムに圧着させるのに対して、遠心クラッチでは、シューその物に働く遠心力で圧着しています。 

Rプーリーとつながるクラッチアッセンブリーが回転し、その中でシューに働く遠心力が大きくなると?

シューが、クラッチスプリングに打ち勝って広がり、クラッチアウターに接触し、タイヤ側へ力が伝わる様になります。 
 

Rプーリーの点検  

 
Rプーリーの作動の点検は、リターンスプリングに逆らって開く(ベルトが食い込む)かどうかって事です。 

プーリー面に傷を付けないように、気を付けながらドライバーで押し広げています。 
かなり強いスプリングですから、滑らさないように気を付けて! 
引っ掛かり無くスムーズに開閉出来ればOK! 

合わせて、ベルトの摺動痕が、ムラなく綺麗に付いているかも点検しておきます。
均一に中心側から円周側まで付いておれば、スムーズな変速が行われている可能性が高いわけです。
 

クラッチの作動点検   
  
シューが遠心力でスムーズに広がるかどうかを調べます。

すると、動きが渋く、固いと同時に充分なストローク分、動きませんでした。 
そこで、摺動部にブレーキ用の耐熱グリスを少量塗って、おいちにおいちにとウオーミングアップ! 
クラッチスプリングが柔らかくなったかと思える程、スムーズに動くようになりました。 

遠心クラッチがスムーズに作動しないと、発進が唐突になったり、最高速が低下したりします。 
 

ドライブベルトの点検   
Vベルトは、ケブラー繊維で補強された大変丈夫な物です。 
でも、最も重要なパーツですからしっかりと点検! 

ねじれや、折れ癖がないか、特に、側面の磨耗状態に注意し、毛羽立ちや荒れ、部分的なテカリ、油汚れ等があれば、出来るだけ交換するようにします。 
  
 

フロントプーリーの点検  

 
フィンの付いたドライブフェイスを取外したところです。 
次にウエイトローラーが中に入った、残り半分のプーリーを取外します。 

奥に見える少し錆びたギヤは、リングギヤって言ったところの物。 
スターターが噛み合います。 
 

これが低速時    

中に入っているウエイトローラーが、遠心力で外側(円周方向)に移動していない状態です。

この状態が低速状態で、向かい合うプーリーフェイス間が広がり、ベルトが食い込みます。 
その結果、プーリーの直径が小さくなった事になります。 
突き出ているカラー(プーリーボス)の先に、向かい合うもう一方のフィン付のドライブフェイスが付くわけです。 

下の写真は、その時のプーリー裏側の様子です。 
裏表のプレートが接近している事がわかります。 
ベルトが接する表側のフェイスが、ウエイトローラによって動かされていない状態です。

これが高速時  

低速時と違って、カラーの突き出しが有りません。 
表側のフェイスが、ウエイトローラーでドライブフェイス側に押し出されています。 
その為、向かい合うフェイスが接近して、間隔が狭まります。 
その結果、ベルトが円周方向に押し出されプーリー径が大きくなった状態となります。 

点検は、この様に裏表のプレートがスムーズに動けばOKです。 
もちろん、変速がスムーズでなかったり、フェイス面のベルト摺動痕に異常が有った場合は、分解してウエイトローラーの状態も点検します。

クラッチドラムの修整   
クラッチアウター(ドラム)の摩擦面に洗濯板‥‥‥
洗濯板と言っても知らない方が多い? 
わずかにバーコード状の筋が付いています!
これは、シューがドラムへスムーズに貼付いていなかった証拠です。 
そこで、サンドペーパーで修整します。 
#100ぐらいから始めて、#400ぐらいで仕上げればOKです。 
程度がましであれば、仕上げだけで充分です。 
注意点としては、傷の部分だけでなく、全体を均一に研摩します。 

同時に、シューも、きつく当たっている部分を面取りし、全体的にも軽く摺っておきます。 
  
 
 完成  
試運転で、変速とクラッチの作動を確認しています。
加減速につれ、前後のプーリーがスムーズに変化する様子がわかります。

リヤタイヤが接地すると、前に飛び出しますので充分な注意が必要です!

空回しでは、問題なくいい感じです。
後は、カバーを組付けて実走行で確認すれば完成です。

その結果は?

発進時のモタモタが解消し、クイックでスムーズになりました。
特に、スラローム的な切り返しでは、タイヤトラクションが安定し、全く違うバイクのようにスムーズな走行が出来るようになりました。

走行距離約6000キロ、でも少し手を入れると随分良くなる物ですね!
 

注)説明中の用語は必ずしも正式名称ではありません。

 
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